なぜ紗音は「悪食島の悪霊」の名前を挙げたのか
「…話を少し巻き戻すよ。……紗音は、嘉音くんが偽者かもしれないと思った時、クモの巣を取ってきたと言ったね? どうしてそんなことを?」
「……そうだ、それは私も思っていました。どうしてクモの巣だったんです?」
「前に、熊沢さんに聞いたことがあるんです。……大昔の六軒島には、悪霊が住んでいて、その、クモの巣を恐れたって。それでクモの巣を魔除けと尊んで大切にしたという昔話があるんだそうです。
……それでその、……咄嗟に。わ、私も少し混乱していたんだと思います…。」
「…………そんな話が。…熊沢はそういう昔話に詳しかったな。」
このシーン。おかしいですよね。
なぜ紗音は蜘蛛の巣を取りに行った理由について「悪食島の悪霊」の名前を挙げたのでしょうか?
物語がEP8まで完結した今ならむしろ不自然さはないかもしれません。
悪食島の悪霊は確かに蜘蛛の巣に弱いと言う設定があり、それを考えてここだけ見れば紗音の行動は不自然ではないと言えるでしょう。
しかし、EP2冒頭からの流れを踏まえるとどうでしょう?
EP2は冒頭から紗音とベアトとの出会い、そして確執が描かれています。
ベアトは紗音に儀式の執行を告げ、紗音は抵抗を宣言します。
ここら辺を見ても、紗音の命を狙うものが現れればそれはベアトリーチェの仕業と考えるのが妥当なところでしょう。
実際、私自身も初見の時は朱志香の部屋での出来事もあいまってベアトが攻めてきたと思ったものです。
ですが、紗音はあの嘉音襲撃のシーンからベアトリーチェではなく悪食島の悪霊を連想したのです。
なぜ紗音は嘉音襲撃のシーンからベアトではなく悪食島の悪霊を連想したのでしょう?
私はこの問いに対してこう考えました。
紗音は我々が持っていない情報をもっており、その情報から悪食島の悪霊を連想した。
ではその情報とは何か?
それは悪食島の悪霊の物語です。
悪食島の悪霊の話は熊沢の十八番です。
右代宮家に務めて長い紗音はそれを聞かされていることでしょう。
紗音は嘉音襲撃のシーンから悪食島の悪霊を連想した。
つまり、嘉音襲撃のシーンは悪食島の悪霊のお話に似ていたと言うことです。
で、あるのならば悪食島の悪霊のお話は嘉音襲撃のシーンから推測できるのではないでしょうか。
まず、この時点で嘉音は本来、朱志香の部屋で殺されていると赤字で宣言されていること。
また、嘉音が動いているため南条は死亡宣告をだしてはいませんでしたが、嘉音を治療する際にほぼ致命傷を受けていると認識していること。
ここら辺から考えると紗音は嘉音が死んでいると認識したのではないでしょうか。
つまり、悪食島の悪霊のお話は死んだ人間が戻ってくる話だったと推測できます。
さらにその後の展開も含めれば
「悪食島の悪霊に魂を喰らわれた者は死者となって戻り、人間を襲う」と言うストーリーだったのではないでしょうか。
なるほど、これは悪霊の名にふさわしい話であると言えるでしょう。