Here is a witch's heart

07th Expantion様の「なく頃に」シリーズの考察を行っています。たまにブラウザゲーム「政剣マニフェスティア」についても言及するかもしれません。

九羽鳥庵ベアトと金蔵の関係

以前にも記述したことがあるのですが、九羽鳥庵ベアトと金蔵の関係についてもう少し深く考察を進めてみました。
以前の考察のリビルドと追加です。

loosedogtom.hatenablog.com


まず、起点とするのは「なぜ九羽鳥庵ベアトは右代宮家に迎え入れられないのか?」と言う疑問からです。
なぜ、19年前に夏妃に預けられた子供のように九羽鳥庵ベアトは右代宮家に迎え入れられなかったのでしょう?
また、19年前に子供と一緒に九羽鳥庵ベアトを迎え入れることはできなかったのでしょうか?


これに答えを返すのならば金蔵と金蔵の妻について考える必要があるでしょう。
例えば「金蔵は妻に対して遠慮があった」とおいてみてはどうでしょう。
金蔵にとって望まぬ結婚ではありましたが、妻に対して金蔵はどのような感情を抱いていたのでしょう。


なんだかんだ言って戦前に金蔵は妻との間に三人の子どもをもうけています。
九羽鳥庵に通う時も妻にはばれないように細心の注意を払っています。


金蔵は妻に対して、心底愛しているとは言えずとも、親愛の情ぐらいは抱いていたのではないでしょうか。
故に、妻を極力傷つけないように金蔵は行動していた。
金蔵の妻が存在する間は九羽鳥庵に住まうリーチェの娘を右代宮家に迎え入れることはできなかった。
リーチェと出会った後にも関わらず、楼座をもうけたのも浮気を疑う妻に対してのフォローだったのかもしれません。


ところがこの考え方ではおかしな点が出てきてしまいます。
冒頭にもあげていますが、19年前に子供と一緒に九羽鳥庵ベアトを迎え入れることはできなかったのか?と言う点です。
19年前の子どもを受け入れたと言うことは、この時点で金蔵の妻は死亡していたはずです。
それなら一緒に九羽鳥庵のベアトも迎え入れればよかったはず。
なんならいっそのこと後妻として迎えてもいいのです。

しかし、金蔵はそうしなかった。なぜか?
それはしなかったのではなく、できなかったのではないでしょうか。
19年前の子どもを受け入れた時点で九羽鳥庵のベアトは死んでしまっていたと考えたらどうでしょう。
つまり、時系列として九羽鳥庵のベアトと楼座が出会った後に19年前の子どもが右代宮家に預けられたのです。
【2019年1月4日追記 EP3には楼座の家出の原因に母に叱られてとありました。
 楼座との出会いの時点で金蔵の妻はまだ生きているため迎え入れることはできませんでした】


楼座が九羽鳥庵のベアトに出会った時、ベアトは楼座の名乗った右代宮の名前に興味を示しました。
もしも、この時点で金蔵がベアトに対して過ちを犯していたのならベアトはこのような反応を示すでしょうか?
そして初めて出会った人間に対して心を開くでしょうか?
しかし、実際にはベアトは、楼座と楼座の話に興味を持ちました。
この様子を見ると、この時点では金蔵はベアトに対して過ちを犯していなかったとも考えられるのです。

そして、その後、ベアトは楼座に連れられ九羽鳥庵を離れ、崖から落ちるのです。
その際、楼座はベアトの様子を見ています。
頭が割れ、脳が出て死んでいました。これは赤字でも保証されます。


しかし、脳を破損して死んでいても、その肉体はどうでしょう?肉体の中の卵子は?遺伝情報は?
金蔵ならば、そう簡単にベアトをあきらめるとは思えません。
楼座はその後怒られるのではないかとおびえていました。
しかし、実際にはおとがめなし。
それは金蔵がそれどころではなかったことを示しています。
金蔵はベアトを救命するために忙しかったのでしょう。
そして、必死の対策を講じ、九羽鳥庵のベアトを蘇生させることはできませんでしたが、なんとか遺伝子を継ぐ存在を残すことができたと考えることができるのです。


娘にリーチェの面影を見た金蔵の犯した過ち、そして19年前の赤ん坊。
こう書かれると、金蔵が九羽鳥庵のベアトを犯し、子供を作ったように考えてしまいますが、実際にそのようなことがあったと言う直接的な言及はありません。
ここまでのように考えると、金蔵は娘に対して乱暴は働いていないとも言えるのです。


では、金蔵の犯した過ちとはなんでしょうか?
熊沢は

「女として
 …九羽鳥庵のベアトリーチェさまのお心を
 誰かに伝えねばと思っていました」

と語りました。
で、あるのならば金蔵の犯した過ちを考えるためにはベアトの心を考えなければなりません。
先述したとおり、楼座から右代宮の名前を聞いたベアトの反応は好意的なものでした。
ベアトは金蔵を嫌ってはいません。むしろ好意的です。


こう考えてはどうでしょう。
ベアトは金蔵に好意を抱いていた。
しかし、金蔵はベアトを通して別の女性を愛している。
ベアトは金蔵にアプローチをかけるも、金蔵は自分を見てくれていないことに気づいてしまう。
おそらく、金蔵はベアトのアプローチを拒んだ、もしくは受け入れたとしてもリーチェを見てしまったのでしょう。
そしてベアトは自分が何者か、悩んでしまったのでしょう。
それが次のベアトのセリフにつながります。

「皆は妾をベアトリーチェと呼ぶ
 …それは確かに偉大なる魔女の名前らしい
 しかしそれは妾ではないのだ
 妾には魔法など使えぬ
 妾はその魔女の魂をこの身に封じられているだけなのだ…
 妾はもうベアトリーチェは嫌だ………」

「妾が何者で
 何のために生まれてきたのかを
 知りたい
 ベアトリーチェではない新しい人間を始めたい」

「もう 紅茶もドレスもいらぬ
 金蔵とも二度と会わぬ」

「ここではない世界が見たい」

金蔵とも二度と会わぬ」がポイント。
この会わぬは嫌いだから会わぬと言う意味ではありません。
これは好きな紅茶やドレスと並べて、好きなものを断ってでも変わりたいという決意の言葉です。

自分自身を愛してもらえないとわかった九羽鳥庵ベアトは自身のベアトリーチェと言うアイデンティティを取り払いたいと願いました。
これらのセリフはそう読み取ることができます。


楼座が怒られなかったのは金蔵がベアトリーチェの蘇生に忙しかったからと先述しました。
しかし、ここまでの考察より他の解釈を得ることができます。
それは金蔵が連れ出した人物を責めるより自分を責めていたからと言う可能性が生まれます。
自分の態度のためにベアトが外の世界に出る決意をしてしまったと。

金蔵の犯した過ちとは、九羽鳥庵ベアトにリーチェを重ねてしまい彼女自身を愛せなかったこと。
熊沢の言う「ベアトリーチェさまのお心」とは金蔵に対するベアト自身の恋心。


普通に読むと正反対の印象のシーンですが、細部を詰めるとこのような読み方をすることもできるのです。



どうか死者達の魂に安らぎを